以前にもお話しましたが、人工心肺についてお話します。
私たち心臓外科医が手術に用いる人工心肺、これは人工的に心臓と肺の役割をする心臓手術のための医療機器です。人工心肺を用いる手術は心臓弁膜症や胸部大動脈手術が一般的です。冠動脈バイパス術は近年人工心肺を用いないで行うオフポンプCABG(冠動脈バイパス術:人工心肺は“ポンプ”と呼んだりもします。)が日本全体の2/3を占めるために、数が少なくなっては来ました。とはいえ人工心肺は心臓などの手術にはなくてはならない大切な手術機器です。人工心肺を体に付けるのには、一般的に血液は静脈から脱血(といいます)します。具体的には右心房や上下の大静脈にチューブを挿入して行います。体に血液を送り返すのは(送血といいます)上行大動脈などです。この送脱血のチューブを取り付けたら人工心肺をスタートします。その後、ベントチューブを肺静脈から左心室に挿入します。ベントチューブは心臓内の血液を抜く役割をします。人工心肺を用いて脱血しても、心臓には血液がいくらか戻ってきます。その血液を少なくする役割をします。また心臓の縫合などの処置が終わってから、心臓内の空気を抜く役割もあります。チューブが入ったら心臓を止めます。上行大動脈を遮断鉗子でしっかりと挟み込み心筋保護液を大動脈の根元などから注入して心停止として手術を行います。心筋保護液(心停止液ともいいます)は高K(カリウム)の液体で、高カリウムによって心臓を停止させる薬です。
この人工心肺の装置は、心臓や大動脈の手術にはなくてはならない装置です。世界中どこでも当たり前に使用する装置で、術中の皆さまの命を守ります。
心臓血管外科医 菊地慶太