先日行った朝の勉強会では、冠動脈バイパス術(CABG)におけるグラフト(バイパスに用いる血管)の話を行いました。内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術(CABG)の長期的な成績は以前から良好であると報告されており、現在では両側内胸動脈を使用した冠動脈バイパス術の10年生存率はおおよそ85%(100人の患者さんを手術すると10年後に85人の患者さんが生存している:ちょっと嫌な言い方ですみません)というものです。1本の内胸動脈を使用したCABGでは75~80%くらいの10年生存率です。病院などによって少し差はありますが世界的なデータを見るとおおよそこのような数字です。であれば両側内胸動脈(BITA)を用いてCABGを行うべきだと考えますが、世界では5%(多分もっと少ないと思います。)くらいしか使用されていません。日本では30%以上の使用率です。なぜ少ないかというと、内胸動脈採取に時間がかかることや、両側内胸動脈を使用することで胸骨骨髄炎のリスクが1%くらい増加することが主な原因です。日本では両側内胸動脈の使用率は諸外国と比べて多い理由があります。ハーモニックスカルペルを用いて内胸動脈をスケルトナイズ(周囲の脂肪組織や静脈を内胸動脈につけずに、内胸動脈のみを採取する方法)する方法が広く普及しているからです。私も2002年頃からこの方法で内胸動脈を採取しています。この方法ですと、胸骨骨髄炎のリスクが減り、かつ十分な長さの内胸動脈が採取できます。実は外国ではコストの問題があり広くは普及していません。OPCAB(心拍動下冠動脈バイパス術)とハーモニックスカルペルを用いた内胸動脈や胃大網動脈の採取は日本のお家芸といえますね。心臓血管外科医 菊地慶太